「すまない、リシェル。君をこの黄金郷から追放する」 「はん、何がすまないだ。てめぇは自分の事しか考えてねぇだろ」 「私の事、それは即ち黄金郷と同義。だからこそ、私の片割れであるお前にもこの追放に大義があるとわかるだろう?」 次元断層に座する黄金都市、神が住まう楽園の極端。人だかりの中でそれは行われていた。瓜二つの容姿を持つ対峙する二人の男。黄金郷にも勝る金色の長髪を靡かせ、純白の礼服に身を包んでいる。片や白い外套を羽織り、金の装飾が施された鞘を地面に立て柄に両手を添えており、片や後手に両手をくすんだ鉄の輪で拘束され、両肩を白銀の鎧を身に纏う二人の兵士に押さえ付けられ跪かされていた。 「リシェル様、これも私達の為なのです。どうか、どうか御理解を」 「うるせぇぞ、ただの人間風情が!!」 リシェルの怒号に兵士は体を震わせるが、肩を押さえて離さない。金に輝く鞘が場を制するように地面を叩いた。 「リシェル。此処に住まう人間は等しく神だ。そう決めたのは私達だろう?」 「此処を作ったのは俺達だ!!」 「そう、私達だ。私達二人の持つ黄金の魔力により築き上げたのが黄金郷だ、私達の国なのだ。だが国には民が付きもの。私は国の為、民の為、黄金郷にとっての最善を取る義務がある。そしてその義務はお前にも等しく発生する」 「それが追放だってか……!!」 「私はお前を信用している。お前は必ず此処へ帰ってくる、その確信があるのだ。だから一時、この一時だけ黄金郷から離れてくれ」 鞘を捨て、黄金の刀身を惜しみなく曝け出した男はリシェルへと歩み寄る。切れ長の瞳は澄んだ翠を曇らせる事はない。相対するリシェルは激情を隠さない表情で緋を燃やしていた。 「シェリル……」 「しばしのお別れだよ、リシェル」 見納めるように黄金の刀身をリシェルの顎に添え見据えた後、シェリルは大上段に剣を構え──。 「リシェル様!!」 「ベルナ!!」 飛び込んできた少女諸共切り捨て、二人は黄金郷から落ちて行った。 「シェリル、てめぇええ!! ぜってぇ戻ってやるからな!!」 「あぁ、待っているよ。早く帰って来ておくれ、私のリシェル。私達の為に、お前の為の箱庭を用意しよう」 ◇ 「ベルナ、ベルナ!!」 「ごめんなさい、リシェル様……」 「お前はただの人間だろ!! このままだと!!」 「良いんです。私の最後が貴方と共に居られるなら」 「くそ、くそ!! どいつもこいつもふざけやがって!! ぜってぇ、死なせないからな!!」 リシェルの声に呼応する様に腕輪が壊れると溢れ出た黄金の魔力が二人を包み、次元の狭間へと消えて行った。