40年前、一夜にして一国が消滅する事件があった。 消滅した国の名は真王国ビエラダリド。風化する様に消滅した国に生き残りがいた事は、当人以外知る由もない。 ──ドルミナ・ミルヴィーユ。 かつて真王国に錬金術を持ち込み、国を発展させた功績を認められ特別迎賓として国に迎えられた錬金術師であり、真王国を消滅させた張本人である。
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「めんどうねぇ」 雑然とした室内を見渡し、彼女は溜息をつく。 余りに唐突に放り出され目的も判然としない、その癖期限だけは一年内と決められた卒業試験。師匠に渡されたのは専用の工房と謎の言語が書かれた紙であり、読める訳もない。一先ずは生活できる状態まで掃除が必要だが面倒である。放り出される時に幾らかせびった資金もあるが、これで人を雇って片付けるにせよ指示をするのも煩わしい。重い息を吐きながら近場の箱を開け「あぁ、都合の良い物があるではないか」と、見つけた品を取り出すと工房の作業机に置く。 取り出したのは地脈付近まで掘られた深い穴から採取された、鉱石と粘土が混じった土塊であった。その土塊を雑に整えつつ、簡便な手足を付けると立たせる様に持ち上げた。 《ミレヴィア・ミルヴィーユが赦します。私の名の下に世界の理を歪め、私の理を是とする世界を》 言葉は鍵であると言っていた。個は世界であると言っていた。錬金術とは世界の理を、言葉を媒介に自分の世界に改変する力、と師匠は言っていた。正直な所、原理はさっぱりわからない。それでも何故か出来てしまう。だからこそ「そういうものなのだ」と師匠の言葉を疑う必要がない。手を離すと自立した土塊が、体の調子を確かめる様に動いた後に、指示を待つように彼女を見上げていた。ような気がする。 「もう少し調整が必要ね」 自立する土塊に手を添えると、土塊を混ぜる様に操作し鉱物を骨子に、周囲を粘土でまとめ、外皮を細かい砂利へと組み替える。 「これで多少重くても耐えられるでしょ。それじゃあ先ずは散ってる荷物を私の周りに集めて頂戴。中身を分類したら細かく整理してもらうわ」 ゆっくりと動き出した土塊を確かめて欠伸をすると、土塊を取り出した箱の中の荷物を一瞥する。何も今日明日で終わらせる必要はないのだ。のんびりやろうと、彼女は椅子に深く座り腕を組む。放り投げる様に机の上に足を乗せると瞼を閉じ、咎める者がいない空間で寝息を立て始めていた。