「あぁ、夏目さん。何もこんな日にまで来てもらわなくても」 ギレット支部に辿り着いた優を、南雲副支部長が慌てて出迎えると奥へと通す。 「いやぁ、酷いですね」 「この日は街の人でも外に出ない人が多いんですよ? それを何の対策もせず……」 「すみません、宿にいてもやることが無いもので。それに一度引き受けましたからね。巡回までは何か手伝わせてもらおうかと思いまして」 「もぅ、今日は巡回はしなくても大丈夫ですからね。それこそ本当に何かに襲われてしまいますから」 呆れたような怒ったような、優を心配して口を尖らせる彼女に微笑みながら頭を下げる。 「支部長はいらっしゃらないのですか?」 「……困ったもので巡回に行ってますよ」 「言っても聞かないんですね」 「そうなの、本当に困っちゃうわ。警備の方もこの日は普段より巡回が少ないからって」 「何か手伝えることはありますか?」 「そうねぇ、普段なら今日は西区に住んでいる方の日用品の買い出しを手伝っているんですけど流石に今日は。明日でも問題ありませ……」 歯切れ悪く、何かを思い出した副支部長は眉を寄せ「すみません、ちょっと待っててください」と優に告げると壁際の伝達機を手に取り誰かと連絡を取り始めた。短い会話を終えた彼女は眉を下げ不安そうに優を見る。 「今、買い出しの手伝いをしている人に連絡したんだけど春ちゃん、朝に来てくれてから戻ってないって……」 「もう昼過ぎですが、そんなに時間がかかる買い出しなんですか?」 「いえ、一時間程度で終わるんですが」 「わかりました、探してみます。西区の方の家と買い物先、何かが出た場所がわかる地図をいただけませんか」 副支部長は地図を手に取ると印を付けていく。 「すみません、本当にすみません。昨日の内に春ちゃんに言っておけば」 「気にしないでください。ただ支部長には私から伝えます。ですので巡回から戻った支部長には何も言わないでください。流石に支部長まで飛び出しては万が一の時、助けられません」 「ごめんなさい、外の方に頼ってしまって。巡回はしなくていいって言ったばかりなのに」 印のついた地図を手に取り現在地との位置関係を把握すると、申し訳ないと頭を下げる副支部長に微笑みかける。 「気にしないでください。巡回ではなく小笠原さんを探しに行くだけなので。一通り見て回ったら一度戻りますので、くれぐれも支部長には伝えないでくださいね」 それだけを言い残すと優は布を口元に当て、先の見えないガスの中へ潜っていった。 視界の悪いガスの中、優は地図とにらめっこしながら街を歩いた。買い出し先、西区の長瀬さん宅を優先して辿るが小笠原春はいない。ふぅむとしばし考えた後に今度は何かが出た場所へと向かう事にした。印は三箇所、都市でも主要な工場の周りについている。場所を確認した優は工場の元へと向って行った。そこではたと思い出す。 「あぁ、今日は一番大きい工場が休みなのか」 数日に一回、完全休業の日。その日は排熱のせいで濃いガスが都市に充満する。良くもまぁ、こんな状態で生活できるものだ。辺りを見渡すが人影はない。いや、やはり生活出来ていない。街の現状を噛み締めつつ、何かが出た場所を見て回るが誰もいない。