魔王は世界を行脚する。 自由な世界を謳歌する。 魔王を縛るは己の秩序。 一歩歩けば世界が開く。 開いた世界は秩序で保つ。 保った秩序は自由を作る。 ある時は少女を助けた。 ある時は魔物を保護した。 ある時は魔族と人間の諍いを仲裁した。 何が正しいのかは未だにわからない。 しかし、それでも成さねばならない事もある。 あいつは人間で在りながら、たった一人で世界を救おうとした。 いや、確かにあいつは救ったのだ。 そして私を残して逝った。 残された私はやるべき事を考えた。 世界を見れば、私は如何に狭い世界に身を置いていたかを実感する。 魔王など居なくとも世界は回る。 魔物は変わらず人を襲う。 人々は互いに争い合う。 世界を見渡して改めて思うのは、世界は勇者にも魔王にも思った以上に興味はない。 勇者も魔王も世界の極一部の出来事でしかなく、それはきっと世界から見れば、たまたま道端の石を蹴った程度の瑣末事。 そんな自分達に興味はない世界を、あいつは守った。 ならば残された私がする事は唯一つ。 私はあいつとは違い可弱い人間では無い。 私は魔王、力が全ての世界において頂点に座する存在。 この私を屠れる存在は新たな勇者か次期魔王。 私は、私の矜持を持って秩序を作る。 あいつが成したが、あいつが成せなかった事を私が成そう。 勇者が守った平和を、魔王の私が維持しよう。 それがきっと、私の望む自由だろう。 それがきっと、私が出来る弔いだ。
見ていろ、勇者。 私の命が尽きるまでに、世界を私の秩序で覆ってやろう。 自由な世界を成してやろう。 それでも尚お前の作った檻の端に辿り着けなかったのならば、致し方あるまい。 魔王である私が人間であるお前に負けを認めてやろう。 ──さぁ、勇者。最後の勝負を始めよう。