閉塞的な空間は苦手である。それが魔王の館であればも尚の事。慣れない場所の息苦しさを誤魔化すように何となく館を歩き、屋上へと出た。 「デリダ殿。こんな夜分に何用で館内を徘徊しているのだ」 燦然と輝く猫目石に見下される闇夜。月を覆うように集まる霧は、デリダの前で人型を象り顕現する。その姿は初めにあった壮年の姿ではなく、デリダと歳の近い少年の姿を模していた。 「……こんな所で無茶な事はしない。ただ眠れなかったから歩いてただけだよ」 「そうであったか」 「あんたは蒸し暑いとか思わないの?」 「私は人型にしているが本質は霧と魔素。生物に備わる殆どの感覚は存在しない。外殻を形成する結界にかかる物理的な圧力によって触れているとは認識できるがな」 「会食の時、どうこう言ってなかった?」 「味覚はないが風味は霧と混じれば感じる事は出来るのだ」 「あっそ」 誰かと遭遇する事を想定していなかったデリダは屋上の際まで歩き、周囲を一望する。生暖かい風に包まれながら漫然と、今日の事を思い返し改めて疲労感を感じて溜息をつく。遠くで木々のざわめきと波の打ち付ける音が聞こえた。 「ベルジダット」 「何だ」 「一回ドラゴンの形で負けた後、何でそっちから攻撃仕掛けなかったのさ」 生温い風がベルジダットの曖昧な声を運んでくる。 「ふむ……。何故か。私は人間が嫌いである。そもこやつらは魔王様を狙う敵、嫌い以前の問題だ。何故私はあそこで足を止め無駄な勧告をしたのだ? 敵に何かを期待していたのか……?」 「それと何で僕と戦ったのさ。あんたなら僕とバルトさんを無視して後ろの二人を狙えば、その訳わかんない破壊する能力で倒して僕ら二人と持久戦すれば勝てたんじゃないの?」 「そちらはその通りだ。私が戦い方を選ばなければ人間程度に遅れを取るなど有り得ない」 「自分で言っといて認められると腹立つね」 「事実である。少し待て、先の質問の答えが纏まらぬ」 何を真面目に考えてるのかとデリダは思うも、そんな事がベルジダットに伝わる訳もない。その時の事を回想し、ベルジダットは記憶の海を揺蕩っている。 「……ふむ、そうだ。答えは口にしていた。魔王様は争いを望んでいなかった。だから貴殿らがそのまま帰るのならば見逃そうと判断したのだ」 「ドラゴンで負けたのに?」 「私は魔王様の配下だ、負ける事は許されん。だがそれは魔王様の意思で行われる戦闘においての話である。今回の戦闘は私の独断先行、私個人の意思で行う戦闘に勝ち負けの意味はない」 「人型でも負けたよね?」 「私個人の敗北が魔王様の敗北に直結する訳ではない。現に貴様らはシィラ殿に無力化され、残された二人ではシィラ殿とケルザに太刀打ち出来まい。今、貴殿らが生きているのは魔王様に争う意思がなく、貴殿らの一方的な要求を寛大な魔王様が受け入れたからである」 自分でも性格の悪い言葉を繰り返しているとデリダは自覚していた。だがベルジダットは一貫して自分の敗北を事実として認め、その上で魔王が敗北した訳ではないと主張する。甚だ気に食わないが、結果論だとしても争わないと宣う魔王の意思に沿い僕達は生きて魔王の館に泊まる事になっている。それは間違いなく魔王の勝利であった。 「……何で戦い方を選んだのさ。確実に勝てる自信あったんでしょ」 「それは私を足止めした相手が貴殿だったからですな」 「……僕?」 「会食の場では申し訳ない事をした。意図したつもりは無いが、常々人間は見下している事が漏れてしまい真意を伝えきれなかったのだ。称賛に値する、正しく言い換えるのであれば感服したの方が適していましたな。それは魔王様と会食を過ごせた事も然る事ながら、私個人としては特筆して貴殿に感服したのだ」 ベルジダットは屋上の端から彼方を眺めるデリダの前に、足場のない宙空を何事も無い様に歩いて回り込む。 「貴殿らが私と戦うと決断した貴殿の啖呵、圧倒的に不利な死地にて私と渡り合う戦闘技能。そして何より私の死地において自身の死を完全に認めなかった、あの気迫。あそこで後ろの人間を狙うのは私の矜持に反すると感じたのだ。あの場で貴殿を無視するとは、それは即ち意志の強さにおいて負けを認めたと同義。私の意志が折れると言う事は魔王様を裏切るに他ならない愚行。正面から来た敵は正面から葬る、謀られれば謀りごと叩き潰す。小手先での計略による勝利など魔王様の品位を貶める恥なのだ。魔王様を私の行動で辱めるなどまかり通らない道理」 一拍おいた間が長く感じる程に、デリダの意識はベルジダットに向けられていた。 「つまりはデリダ殿。貴殿の意志が私を釘付けにし、足止めした事で私を敗北へと追いやったのだ。その意味を込めて感服したと、貴殿に送らせて欲しい」 恭しく頭を下げたベルジダットから目を離せない。何かを言おうとしては取り下げ、言葉を模索し舌を空回せる。どうにか手繰り寄せた言葉は、稚拙な言葉であった。 「……ベルジダット。僕は初めて、魔族を尊敬した」 「二度と来ない星空の下では、お互い口が軽くなるものですな」 頭を上げたベルジダットは屋上へと戻り、地に足を付ける。敵に自身を認められた事に複雑な感情を抱くも「馬鹿じゃないの」と気持ちを誤魔化すために呟いたデリダは部屋に戻ろうと数歩歩いて足を止める。 「最後に聞きたいんだけどさ」 「何ですかな」 「魔王が平和に生きたいって言ってたの本当だと思う?」 「……私は封印される前の魔王様を知っている。そのかつての魔王様に、幼き私は魔族の世界を夢見て従者となった。そんな愚かな奴らさえいなければ、魔王様は酷く平穏な方なのだ。そして今、様々な条件が重なる事で、それが叶っている。私から言える事は微睡みの呪い以上の呪いを未だ背負わされている魔王様に、これ以上呪いをかけないで頂きたい。と言う願いだけですな」 「……あっそ。僕は寝るけど、あんたは?」 「私に睡眠は不要、夜の警戒は私が適役ですな」 「そう、じゃあね」 ◇ フィーレは未だにベッドの上でもやもやしていた。 三人といた時は話せる分良かったが、一人になってしまうと意識せずとも気持ちがもやる。魔王に言い負かされた時を思い返しては答えを変えるが、納得できる答えは見つからない。代わりにいい加減、嫌気が差した空想上の魔王に対しては「うるせー、こんにゃろー」と喚き返す事に成功していた。そんな不健全さでは気持ちを晴らす事ができず、これでは折り合いがつけられないと勢いだって立ち上がる。気持ちが落ち着かないのに体が動いていないのが悪いのだ。こうなれば館内を散策してやると、フィーレは 八つ当たりの様に部屋を後にした。 廊下は外に開放されており、僅かながらに流れる空気が室内よりはマシだと肌に訴えかけていた。部屋の向かいの手すりに手をかけて外を眺める。 正面入口前の開けた場所、あそこで今日ベルジダットさんと交戦した。割って入ったシィラさんと言い合って、ケルザさんが彼女を守る所を見た。デリダ君を担いで歩いたのは旅に出て初めての力仕事だったかもしれない。そしてユーリさんと二人で、館の主であるお嬢様兼魔王であるキルシェさんと謁見した。 空を見上げれば世界を照らす猫目石、闇と同化する廊下の半分を光で断ち切っていた。手摺に片手を乗せながら何となく歩き出す。目的地など無い。ただ月明かりに照らされる視界、肌を撫でる風、手の平と足裏の感触。それらの外的刺激が、もやもやとした気持ちを和らげていた。一歩一歩、歩くつもりはなく足を前に置く、そんな緩慢な動作を繰り返して結果として歩いていた。 ──結局、私は何がしたくて此処にいるのだろうか。 もやもやを押し退けて何かが顔を出す。不意に訪れた空虚感、それは自分がこの場に必要だったのかと言う疑問である。来た理由であれば国の勅命、今の状況は魔王の提案に流された結果と勇者としての役割を果たす為の行為。全ては魔王討伐という大義の為であり、個人の意思は介在しない。本当にそれで良いのだろうか。国の為、聖職者としての立場、勇者の役割。これらは偶然自分に割り当てられただけで、自分以外が入れ替わっても差し支えのない話。これが空虚感の理由であり、この場にいてすら自分が不必要なのではないかと感じてしまう根源である。 「……はぁ」 気がつけば一階へ降りており、玄関前の広間に立っていた。 広間は玄関側の窓から僅かに光が入る程度で、奥は暗がりで見えない。9割方暗闇の空間で微かな光に縋るよう、窓際に背中を預けて闇を見る。目を凝らしても見えない広間の奥は不可視の空間に対する曖昧な不安と、漠然と見えなくても良い場所があるのだと思える安心感が混在していた。折り合いをつけるとは、こんな状態を指すのかもしれない。きっと今の自分には、この安心感が欠けている。私個人の意思で此処にいる意味が、私の中で判然としていないのだ。闇を見つめながらゆっくりと道程を振り返り、唯一縋れる理由が行方知れずのコルドさんである。それが魔王のせいで揺らいだ結果、もやっていた。 「あぁもう……!! 全部魔王の……いえ、コルドさんのせいですからね。何で……」 何で連絡すらないのか。彼であれば、無事ならば連絡するはずなのだ。それがないのは出来ない状況と言う事だ。王国と関わりのない全く知らない遠い地に飛ばされたのなら仕方ない。連絡手段がないだけで彼が無事ならば許せるのだ。だがもしも昏睡状態や瀕死の状態で全く動けないのであれば許せない。もし彼がもう……。そうであるなら許しを請う事すら烏滸がましい。結局私は魔王を前にして何も出来ずにコルドさんのお陰で生き延びた。その不甲斐なさ、自分の弱さが許せない。悔しい、愚かで、憎らしさすらある。 では私は私を許し、彼を代償に生きながらえた罪悪感から開放されたいが為に彼の生を望んでいるのか。それは違う、絶対に違う、それだけは認められない。私の気持ちは私のもので、彼に背負わせるものではないのだ。 「はぁ、結局私のせいですよね……」 前言撤回、全ての責は私である。 「会いたいなぁ……」 無意識に零れ落ちた一言、それでようやく理解した。全ての答えは単純明快、これに尽きるのだ。国も、協会も、勇者も、魔王も関係ない。漫然と理解していた気持ちではあった。しかしそれは余計な柵に囚われて誤魔化されていたのだ。それを初めて素直に口にした事で、言葉にした事で明確に自分の気持を理解した。魔王の配下が人間かどうかなど関係ない、人間を裏切っていようが知った事ではない。私はただ彼に会いたい、たった一つのその気持ち。それこそが私個人が此処にいる理由であり、他人では替えの効かない私個人の気持ちであった。 「ふふ、馬鹿みたいですね」 こんな単純な動機に気づけず悩んでいたなんて。全ての答えを得た様な全能感は自嘲気味な、晴れやかな笑みに。不安を払拭した安堵感は一筋の涙として床へ落ちた。 「──何をしている」 急転直下、弛緩しきっていた無防備な意識は唐突な外部の刺激に備えがなく、心臓を握られたような衝撃を全身に走らせた。 「ひっ!!」 跳ねた心臓は全身の筋肉を収縮させて見えない壁にぶつかった様に両肘を曲げさせ、両手が肩ほどまで跳ね上がった姿で硬直する。硬い首をぎこちなく捻った先、広間の暗がりからケルザが現れていた。 「不審だな、何を企んでいる」 「あ、いえ、これはその!! 違くて……!!」 「魔王の敵が誰もいない夜に一人で出歩いている。疑われて当然だ」 「ご、ごめんなさい……!! その、眠れなくて少し歩こうと思ったら、考え事していたら此処まで来てしまいまして…!! ほ、本当ですよ!?」 目に見えて狼狽したフィーレに呆れ、ケルザは腕を組むと溜息をついた。 「まぁいい、お前にそんな事をする度胸がある様には思えん。見逃してやる、部屋へ戻れ」 「はい、すみましぇ!!」 もつれた舌を上下から硬い歯で容赦なく噛んだフィーレは両手で口を抑えて屈み込み、あまりの痛さに呻きながら瞳を涙で潤ませる。 「ひっ、たぁ……」 「……何をしているんだ、本当に」 呆れてものが言えないとは、この事か。眼下で小刻みに震えているフィーレを見下ろして、もう一度深い溜息を零したケルザは屈み込む。 「大丈夫か」 その問いに丸くなって俯く彼女は懸命に首を振る。その姿は間違いなく、魔王の館にて最大のダメージを受けた事を表していた。 見かねたケルザに炊事場まで引っ張ってこられたフィーレは差し出されたコップに入った水を口に含み、軽く舌をゆすぎながら冷たさで痛みを軽減させては水を飲み込む事を繰り返して、よくやく落ち着きを取り戻しケルザに頭を下げた。 「……すいませんでした」 「僧侶だろう、治癒できないのか」 「お恥ずかしながら突然の痛みに冷静になれず……。それにこんな情けない事で治癒魔法は流石に……」 「そうか。もう問題がなければ部屋に戻れ」 「あ、あの……!!」 私は気持ちに整理をつけた。折り合いもついた。それならば今度こそ、二人きりだからこそ、私が此処へ来た意味に少しでも価値を付ける為に、この人と話さなければならない。その直感に従ったフィーレは懸命に口を動かした。 「バルトさんとは、シィラさんと三人で話したんですよね……?」 「そうだな」 「私とも、その……。少しだけお話しましょう」 「何の為にだ」 「私の為にです」 自分でもはっきりした言葉が出たと自覚する。ケルザを見上げる瞳に、先程までの弱さを感じない。真摯に向けられた瞳から逃れる様にケルザは視線を外してしまった。 「……意味がわからん」 「貴方に意味はありません。私に意味がある行為です」 「……少しだけだ」 自分の意志で勝ち取った機会、これを無駄にする事はできない。薄暗がりの、ほんのりとした明るさでは彼の表情をはっきりと視認できない。その分、彼に対する意識は言葉と声に注力された。 「ケルザさんは何で魔王と共に生活をしているんですか?」 「理由など無い」 「えっと、人間……なんですよね?」 魔王に対する愚行が悔やまれる。あれを見ては、そう判断するのが当然とも言える。今更突っぱねた答えに意味はない。かと言って沈黙は肯定と取られるだけだ。不要な嘘は余計な疑念を持たせるだけ。 「……そうだ」 「その、魔王を怖いと思わなかったんですか?」 「……怖い?」 「はい。私達は国に命令されて此処へ来ましたが五人で会っても、ほんの一瞬の敵意だけでも私はすごく怖かったんです。だから、魔王と初めて会った時に怖くなかったのかなと思いまして……」 「そうだな……。初めは怖かったかもしれない。だが既にそんな事を思った期間の何倍以上も共に生活している。性格に難はあるが意思の疎通は出来て、存外に対話が成り立つ」 「たぶん、普通の人には魔王と話そうなんて発想は出ないと思いますよ? 何で近くに街があるのに、こちらに住もうと?」 「さぁな。人間よりも魔族と生活する方が性に合うと思ったのかもしれないな」 声にはまるで敵意を感じられない。戻れと言っていた他者に対する拒絶も感じない。なんの事はない。今の私は魔王と彼の様に、普通に対話をしているのに過ぎないのだ。 「そうなんですね。そんなに変わりますか?」 「……いや、そうでもないな。ただ、関わる奴が限られるからそれは楽だな。まぁ一人面倒な奴がいるが」 「ふふふ、シィラさんですね。仲良いですよね」 「勝手に来るから相手に疲れただけだ」 どこか楽しそうに聞こえる彼の声。私は彼に対して、勝手な希望を押し付けていたらしい。こうやって世間話をしてようやく、私は彼をケルザさんだと認識し始めていた。 「勇者一行はどうなんだ」 「そうですね、それなりに長く一緒にいましたので気安い部分は有ります。でもほぼ常に一緒にいるのは少し疲れる時もありますね」 「だろうな」 「はい。まぁ今一番思うことは、コルドさん。行方不明の一人ですね。彼に会いたいなぁと思っています」 「会ってどうするんだ」 「ふふ、それも考えて悩みましたが不要でした」 「会いたいんじゃないのか」 「ええ、会いたいです。でもそれだけで良かったんですよ。会った後の事なんて、会ってから考えれば良いじゃないですか」 私の気持ちは私が正しいと肯定する。その気持ちに従えば会えた時に自分の気持に素直に、考える必要なく行動できるはずなのだ。 「そうか、そうかもしれないな」 「あはは、すみません。ケルザさんがしっかり話を聞いてくれるもので話しすぎてますよね」 「……シィラが、こういう機会は貴重だから好きだと言っていた。今日のような、もう二度と来ないであろう日を楽しみたいと。もしかすると少し、それに感化されたのかもしれない」 「二度とこない日……ですか。うん、そうですね。やっぱりシィラさんと仲良いじゃないですか」 この不思議と話しやすい感覚。それは私が求める答えではあるが、彼に求める事ではない。 「もう良いだろう、明日に備えて休め」 「はい、ケルザさんのお陰で気が楽になりました。ありがとうございます」 頭を下げたフィーレは自然と微笑んでいた。ケルザに促され炊事場を出ようとした所で足を止めた。 「聞き忘れていました。魔王についてですが……」 「俺に答えられるかは知らんぞ」 「魔王の……いえ、お嬢様。キルシェさんの言っていた平和に生きたいという言葉。ケルザさんは本心で言っていると思いますか?」 やや間を置いて、ケルザはゆっくりと口を開く。 「そうであって欲しい、そうでなければ……。いや、俺は本心だと思っている。そもそも魔王を倒せるなど思うのが間違いだ。もし魔王が本気で望むなら大抵の事は力で支配すれば済む。それをしないのはきっと、口にしなかっただけで交流した街の人間も今の生活に必要だと理解しているからだと……俺は思っている」 酷く真摯で懐かしい誠実さ。彼は嘘をついていないと何故か信用してしまう。声の調子や抑揚、良く聞けば聞き馴染みのある声の芯。きっとそれは──いや、彼はケルザさんなのだ。 「おやすみなさい」 これの意味はどちらに対してかわからない。ただ間違いなく一つの決別を迎えた事を、零れた涙で理解した。 ◇ 翌朝、魔王は眠る期間に入っていた。 シィラが街の荷馬車屋経由で待機していたジレンとハイラに連絡をつけられた事で、二人が館へ迎えに来て勇者一行は帰って行った。彼等を見送ったのはシィラだけである。馬車の中で改めて情報共有し、それをハイラが取り纏めていた。 「何だ、俺達は夜にたまたま別の奴と話していたのか」 「あはは、そんな事あるんですね」 「何か元気になったね、フィーレ」 「良くわかんないけど、吹っ切れたんなら良いんじゃない?」 「何だか皆さん、来た時よりずっと雰囲気が軽くなりましたね。報告は纒めましたので、次の街で王国に送りますね」 たった数日振りなのに馬車の揺れが懐かしい。 身に馴染んだ揺れにバルトは目を閉じる。 「ジレン、次の街までは」 「4日程度ですぜ、旦那」 「ハイラはそこで報告を頼む。俺達は……国王の謁見までやる事はない、休ませて貰うとしよう」 「自由時間ってことよね?」 「そうだ、俺かユーリが宿に待機する。それ以外は好きにしろ」 「えー、何日滞在するの?」 「三日でいいだろう」 「じゃあ一日は私が待機するわ」 「……好きにしてくれ。後は各自気になる事があれば報告してくれ」 六人を運ぶ馬車はガタガタと、優しく揺れながら次の街へと向かっていった。