「んんっ……」 僧侶は、瞼を焼く明るさに声を漏らす。心地よく温かい布団からは出たくないとは思うものの、お腹が減った。瞼は閉じたまま呻きつつ体を起こすと、掛け布団がずり落ちる。瞼をこすり欠伸を一つ、朝ご飯を食べよう。寝ぼけ眼の僧侶はボサついた髪のまま、トボトボと隣の部屋へ向かい扉を叩く。 「お師匠さまー、ごはんー」 普段なら自分よりも早く起きている──否、寝ていない彼は返事を返してくれる。昨日もそうだった。だが、今日は珍しく返事がない。 「お師匠さまー?」 怪訝に思いつつ、扉は容易く開かれる。そこには誰もいなかった。 「……お師匠さま?」 寝起きの頭は顰めた眉と共に活動を始めた。室内は綺麗に整えられ、最初から誰も使っていないように見える。明るい室内と対象的に、本来いるはずの彼がいない事に妙な孤独感を覚え、目は無意識に彼の痕跡を探し備え付けられた机に1枚の紙を見つけた。その紙の内容を読んだ瞬間、眠気も空腹も忘れ僧侶は駆け出していた。 気がつけば夜だった。 結局彼を見つけられず部屋へ戻った所までは記憶にあるが、そこから先は欠落していた。意識が戻ったのも、晩御飯の準備が出来たと店主が呼びに来てくれたからである。それも扉を叩いても返事が無いため、声をかけた後に室内に入り呆けた自分を見つけた店主が肩を揺すってくれたからだ。僅かに戻った意識は店主を認識して小さく横に首を振り、掠れる声で断りを入れる。心配そうな表情の店主が何か言っていた気がするが理解できなかった。